きのみきのまま

女子大生の読書備忘録

『草の花』福永武彦

同性愛について描いてある作品を探していたところ出会いました。私は福永武彦さんを知らなかったのですが、とても繊細で、行間にさえ詩的な余韻を残す美しい作品でした。ほかの作品も読んでみたいです。

草の花 (新潮文庫)

草の花 (新潮文庫)

福永武彦(1918~1979)

福井県に生れる。東大仏文科卒。

1.冬

研ぎ澄まされた理知ゆえに、青春の途上でめぐりあった藤木忍との純粋な愛に破れ、藤木の妹千枝子との恋にも挫折した汐見茂思。彼は、そのはかなく崩れ易い青春の墓標を、二冊のノートに記したまま、純白の雪が地上をおおった冬の日に、自殺行為にも似た手術を受けて、帰らぬ人となった。

2.第一の手帳

汐見が藤木忍という同じ弓術部の後輩を「愛していた」ことが記録されていた。場所は夏の合宿であるが、汐見の藤木への愛の告白、藤木のそれに対する拒否反応、そして藤木が結核で死ぬことでこの関係が終わることが綴られている。汐見が藤木に対し「愛していれば苦しくもなるよ」と言うのに対して、藤木は「僕は愛してなんかほしくないんです」と言う。そして、さらに「愛するというのは、つまり愛されることを求めるということじゃないんですか?」と切り返す。「孤独だからこそ愛が必要なのじゃないだろうか?」と汐見は迫るのだが・・・。

3.第二の手帳

今度は汐見の藤木忍の妹、千枝子に対する愛である。汐見は忍の面影を追いながら、千枝子を愛していく。千枝子も汐見が好きなのだが、彼女はキリスト教への信仰をもっていて、信仰と愛との関係でふたりは考え方を異にする。迫りくる軍靴、召集令状を怖れながら、汐見は小説を書くこと、千枝子を愛することに、自らの孤独な人生を突き詰めていくが、結局、千枝子は汐見のもとを去り、汐見は召集されていく。

4.春

「私」が療養所生活をともにした汐見の遺稿の手帳の存在を、千枝子(石井という男と結婚)に伝え、それに対して彼女の返信があり、その長い手紙の全体がそのまま引用されている。彼女は汐見が好きだし、愛していたのである。しかし「もしあの方がわたくしを愛することによって少しでも信仰の方へ歩み寄られようならば、二つの愛を共存させることも可能だと考えました。しかし汐見さんはかたくなに、自分を守り通したかたでございます。そしてわたしは、わたくしの信仰を失いたくはありませんでした」と書く彼女は、「汐見さんがいつまでも兄のことをお忘れにならず、亡くなった兄とわたくしとをいちいち比較して御覧になるその眼の厳しさが、次第にわたくしに耐え切れぬ気持ちを起こさせました」とも書いている。

[感想]

これは、「愛」についての物語です。汐見茂思は藤木忍も妹の千枝子も純粋に愛していました。しかし、その純粋さは彼らには観念的でしかないと受け止められ、純粋に愛されることを求めた汐見は傷ついていく。「藤木、君は僕を愛してくれなかった。そして君の妹は、僕を愛してくれなかった。僕は一人きりで死ぬだろう・・・」という一説が胸に突き刺りました。この痛々しい青春の記憶が、彼のノートの中で追憶として叙情豊かに語られます。また、これは、「孤独」についての物語でもあります。「草の花」という題名に含意されているものが物語の終盤でわかったとき、感動が体中を駆け巡りました。