きのみきのまま

女子大生の読書備忘録

『仮面の告白』三島由紀夫

初めて『金閣寺』を読んだ時の衝撃は忘れられない。この作家は天才だと、心の底から思える小説との出会いだった。三島由紀夫の最初の書き下ろし長編である本著だが、天才ということを再認識させられた。

仮面の告白 (新潮文庫)

仮面の告白 (新潮文庫)

三島由紀夫(1925~1970)

東京生まれ。東大法学部卒業後、大蔵省を9ヶ月で退職、執筆活動に入る。

1.生き方に苦悩する「私」

「私」が他人と異なる性的嗜好をもち、それにひかれながらも自分を偽りながら生きてきた人生の回想である。序盤は、自分自身が常人と異なる性癖をもったのか、「私」なりに考察していく。その美しい文章に圧倒された。しかし、物語の核心は後半にあるので、そこを考察したい。

「私は彼女の唇を唇で覆った。一秒経った。何の快感もない。二秒経った。同じである。三秒経った。――私には凡てがわかった。」(p.182)

「・・・・・・余人にはわかるまい。無感覚というものが強烈な痛みに似ていることを。」(p.209)

同性愛者であることを自覚しつつも、異性愛者として生きていけるかもしれないと試みてみる主人公の苦悩を美しく描かれているさまをただ感服するしかない。

「今でも、あたくし、どうしてあなたと結婚できなかったのか、わからくてよ。・・・・・・」(p.219)

園子は主人を愛しながらも、「私」とのプラトニックな密会を続ける。二人は惹かれあっているが、「私」が肉体的な高まりを感じることができず、心だけがすれ違っている。園子はある種被害者とも思われる立場だが、現代でも異性愛者として振る舞っていて女性と結婚までしても、実際には同性に対する気持ちの方が強い人は一定数いるだろうなと考えながら私は読み進めていた。

2.「仮面」を被った生き方

「私」が同性愛者ということを偽り、異性愛者という「仮面」を被っていると言うこともできるが、「私」の生き方そのものが「仮面」であるように思った。本来、異性愛者であれば、好みの女性の話などを赤裸々に話したりするのだろうけど、「私」は自分自身の核心にふれることは誰にも打ち明けることができていない。同性愛者であると自覚しつつも、男性にアプローチをしたり、そのことをカミングアウトすることがなく「私」が生きていることに息苦しさを感じた。

[感想]

一気に読み終えた。同性愛者でないと書けないだろう、と思うような数々の表現に引き込まれた。初期の作品ということもあって、『金閣寺』の方が非常に洗練された感じを覚える。一定の長さで一定のリズムを持っているように感じられる『金閣寺』に比べて、頭で絞り出された言葉に忠実に書き表した作品という印象を受けた。ただ艶麗な比喩表現が、ふんだんに使われた描写の数々に感動さえ覚えた。この本のテーマは戦争、死への憧れ、同性愛とかなり重いが、なぜか全体を通してそう暗い印象は持たなかった。きっと読み直す。